1年前の2025年4月にもフェイクに関する講義をおこないましたが、今回は、生成AIに対する考察を更に深く加えています。
講義内容の一部は、以下のとおりです。
▶︎フェイク映像は古くから存在する。
映画が誕生したのは1895年であるが、米西戦争やサンフランシスコ大地震など、その頃の歴史的事件を記録したニュース映画とされる映像資料のかなりの部分が、再現によって撮影されている。
1941年の真珠湾奇襲を描いたジョン・フォード監督のドキュメンタリー”December 7th” (1943)にも多くの再現が用いられている。
▶︎フェイク映像が用いられる構造的要因として、カメラのレンズを通して撮影し記録するため、その場にカメラが無い場合は記録できないという映像の特性がある。出来事は起こった後でしか撮影できない場合が多い。
したがって、出来事の最初からきれいに撮影されていた場合、そんなことが可能だったか考えてみる必要がある。
逆説的にいえば、きれいに撮影されていない場合のほうが、真実味があるとも考えられる。

▶︎こうした古くからあるフェイク映像に加えて、近年は、ディープフェイクと呼ばれる技術を用いた捏造がおこなわれるようになっている。
ワシントン大学が警鐘のために、オバマ大統領(当時)のスピーチを合成し、実際には喋っていないスピーチを合成したのを始め、ロシアとウクライナの戦争では、ゼレンスキー大統領の偽の演説も現れた。
また、生成AIの発達により、SNSなどでも多くのフェイク動画が流布されている。
▶︎生成AIには、大規模言語モデルや拡散モデルなど、いくつかのモデルがあるが、現時点では、拡散モデルが、動画生成AIの主流となっている。
生成AIが作り出した映像の真贋を見分けるアプローチは二つあり、一つは内容、もう一つは形式に重きを置く。内容からのアプローチはファクトチェックである。一方、形式からのアプローチは映像のリテラシーを用いる。
▶︎たとえば、生成AIのSORAが作成したアメリカのゴールドラッシュの「歴史映像資料」の場合を検討してみよう。
まず、内容からのアプローチとしてファクトチェックをおこなう。ゴールドラッシュは1848年以降、1850年代中頃までの出来事である。これに対し、リュミエール兄弟がシネマトグラフを実用化したのは1895年であって、ゴールドラッシュ当時には可搬性のある動画撮影装置は存在していなかったことを突き合わせれば、贋物であると断定できる。また、SORAがつくった映像はカラーであるが、当時はまだカラー写真は実用化されていなかったことも指摘できる。
一方、形式からのアプローチには、撮影者と撮影対象の関係に注目する。最も基礎的な着眼点としてカメラ位置の問題がある。また、被写体の人びとのカメラへの反応のあり方も挙げられる。ここでは、たとえ空中撮影を気球に乗っておこなったとしても、その気球やカメラに対し、人びとが何の反応も示していないことから、古典的ハリウッド劇映画に似た典型的なフィクションであると指摘できる。
▶︎生成AIの発達は、現実には存在しない映像の創造を可能にしたが、ファクトチェックをおこなうまでもなく、映像のリテラシーを用いて妥当性を推し量れる場合がある。


